父とそのパーティー
こないだ、父が定年まで務めていた読売新聞社のビルがリニューアルしたそうで、その完成閲覧会?のようなものに、父に誘われ私と娘と旦那、妹とで行ってきました!
……私は知っている…父の本当の目的はその後銀座で一杯やることだと…。
東京駅で待ち合わせだったのだが、父はひと目ですぐに分かった。帽子を斜めに被り、ひときわ全身をビシーッと決め、民謡で鍛えたよく通る声を惜しげも無く発している男、あれが父だ…。この日のために新調したというスーツの新しい感が半端ない。下ろしたての白いスニーカーのような眩しさを感じる…。父はこの時点でもうテンションMAXだった。孫を見るなり「じぃじだぞぉーー!」と両手を広げ叫びながら近づいてくる…。もちろん、孫、「ママぁ!きぁぁぁあ!(お母さん!セキュリティー!!)」となるわけで…。しかし、押してダメなら押し倒せの父。そんなことくらいで娘への歩みを止めたりはしません。てか、あんなに泣かれても少しも怯まないところが逆に凄い。父のこの一方的な愛を見直さない限り孫が懐くことはない…。
ひとしきり構い倒して満足した父は「じゃあ、行くべ!」と子分(私達)を従えていざ出発ー!
「父ちゃんはよ~!この道を40年、毎日通ったんだよ~!目を瞑ってたって歩けるよ!」と東京駅の地下道を軽快に歩きながら勤務40年の歴史を意気揚々と語り出す父。そしてその10分後、「この辺も随分変わったなぁ~!」と迷い出す父とそのパーティー。……完全にここどこだ?みたいなことになってるんですけど…
…40年通ってたんじゃないの…?目ぇ瞑ってても歩けるんじゃないの…!?
「この道はよ~雨の日にしか通らなかったからなぁ、ほとんど通ったことねぇんだよ。ほら、ここ地下だから、雨に濡れねぇだろ?だから、父ちゃんは、この道は雨の日って決めてんだよ。今日はちっと雨降ってるからよぉ。孫が濡れたら大変だろ?でも、遠回りなんだよ、この道は。」
………何言ってんだ、あんた…。それ、40年この道を通ったって言わない…
「まぁ、ゆっくり行こうや、時間はたっぷりあんだからよぉ、急いだって禄なことねぇんだぞ!!」
と普段超せっかちな父はご機嫌に究極の俺自由論を語り、賢者(旦那)の「お義父さんの会社は確かこっちでは…?」と言う希望の光は「いや、ちげぇな。俺の勘だとこっちだな!」と言う政治家のマニフェストより当てにならない勘とやらでぶった切られた。いかん、このままではこの東京砂漠で遭難してしまう。とにかくダンジョンで勇者が迷走し出しすと仲間が言い始めるあの案を、今こそ出す時が来た…!
「お父さん…取り敢えず一度外に出ようか。」
と言うわけで、近くの出口から脱出。賢者の導きで無事に会社まで辿り着きました。そして会社をバックに始まるお決まりの撮影会。それは約15分程続きました。
さぁ、ようやく社内へ!新聞が出来るまでの過程を見ることが出来たり、記者室の様子を見ることが出来たり、食堂で試食が出来たりと社会科見学みたいで楽しかったです。父は所々で元同僚の方と会ったりして「久しぶりだなぁ~!」と大はしゃぎ。……それにしても、なんで父だけこんなに異様に若いんだ…。やはり
人の生気を吸っているのだと確信を得ました。
一通り見学し終わると、ここからが本番!と言わんばかりに「よしっ!飲み行くべぇー!」と更にテンションを上げる父。しかし、まだ午後4時前…どこもお店がやっていない。
「どうする?カラオケならやってるけど、カラオケで少し時間潰す?」と言う私の提案に「由美子、それはちげぇよ。カラオケは締めだろ?いきなりカラオケはそれはちげぇよ。」と熱く語る父。じゃあ、どうするのか?と聞くと、「ニュートーキョーはやってんだろ?父ちゃんはよ、よく行ってたんだよ。生ハム食いてしな!ビール飲みてぇじゃねぇか。まずそこで一次会だ!」と既に歩きながら、ワクワクプランを話し出す父に賢者(旦那)は言った。「お義父さん…!ニュートーキョーはそっちじゃないです…!」
無事、ニュートーキョーに着き、お待ちかねの乾杯です。
「うめぇなぁ!やっぱり、乾杯はビールだよなぁ!」と大ジョッキを片手にご満悦な父。
「なんでも頼め!ここは父ちゃんの奢りだからよ!お!孫は肉が好きだろ?ソーセージとか頼んでやれ!」
「ありがとうー、あ、お父さん、生ハムあるよ?頼もっか?」
「ぁあ?生ハムは父ちゃん、食わねぇよ。塩分強えだろ?そういうのは控えてんの…!それよりつまみになんか、乾き物ねぇのか?」
………………乾き物って結構塩分強いですよね…?ってかあなた、さっき生ハム食いてぇって言いましたよね…?言ったよねぇ…!?
と言う言葉はぐっと飲み込み、乾き物はなかったので代わりにイカの姿焼きを頼みました。
一次会という序章にも関わらず、父は大ジョッキ三杯を立て続けに飲み干し、無駄に店員さんを呼んでは、いきなり!俺伝説!を語り出し、大はしゃぎしたかと思うと、突然ふと頬杖をつき、「うめぇか?」とソーセージをバクバク食べる孫をうっとりと見たりと、34年間父を見てきましたが、正直まだ全体像が掴み切れません…。
これだけ濃い内容を1時間ちょっとでやってのけ、父とそのパーティーは続いて父曰く、これからが本番の二次会へ!二次会は刺身が食いてぇという勇者(父)のリクエストに答えて賢者(旦那)が探した銀座魚屋一兆。
魚屋一兆は「安い!新鮮!元気!」と言う父の最も好きな感じの居酒屋で、ここでも父のテンションは更にUP!オーダーをしにきた店員さんに「いいねぇ!気に入ったよ!また来るよ!」とまだ席についたばかりだというのに軽いジャブをお見舞いしていました。二次会からは日本酒オンリー。
この辺りから酒豪の妹にも火がつき始め、まだ18時代だというのにこの一角だけ、異様な盛り上がりを見せていました。美味しい刺身と日本酒で大変ご満悦な父は店員さんにちょいちょい絡みながら、「よし!三次会はカラオケだぜぇー!」とやはり2時間もしないうちに次のステージへと移り始める父とそのパーティー…。三次会は当初の宣言通りカラオケへ。ここまで約4時間…もう皆へべれけです。私は娘がいるのでそんなに飲まなかったが、みんなピッチ早過ぎ…カラオケは父の鳥羽一郎で幕が上がり「おらー!おめぇら歌えー!」「はいーー!」「じゃあ、ONE PIECEのWE AER!入れてー!」とそれぞれ最後の力を振り絞って歌っていましたが、30分程して皆一気に力付きました…。誰だよ、2時間も入れたの…残された私と娘…こういう時うっかり正気だとなんか損した気になるよね…
「…娘、何か歌う?」
「アンパンマン」
結局残りの時間、色んなタイプのアンパンマンマーチをエンドレスでかけ続けました。
まぁ、なんにせよ楽しかったです!帰り際、「孫、寝ちまったかぁ~!しょうがねぇ、お前ら孫起こしちゃ可哀想だから、タクシーで帰れ!」とお金を私に握らせて颯爽と銀座の街に消えて行きました。
….ありがどう、お父さん、でもさっきの「タクシーで帰れ!」のところで大声出すから孫、目が覚めちゃった…んですけど…
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