思い出すなぁ。一年前の今日…。その日の前日は検診があった。お腹に少し張るような痛みがあったので、先生に相談したが、「この時期はそういうのよくあることだから、大丈夫よ〜。」とのこと。だよね〜。予定日まであと三週間もあるもんな〜。と一安心。その後、旦那と合流して立会い出産の説明を受けた。この説明を夫婦で受けないと立ち会えないとのことだったが、これでもう大丈夫!仕事も産休に入ったし、いつでもバチコーイ!!……なんて言ったからだろうか…その日の夕飯は妹と家で食べ、デザートには贅沢にもハーゲンダッツ、ミルフィーユ味と洒落込んだ。しかし、せっかくのシャレおつデザートもその間ずっとシクシク痛むお腹に体して味わえなかった。妹に「それって陣痛なんじゃない…?」などと言われたが、「まっさかぁ〜!だって今日検診で大丈夫って言われたもん〜!冗談やめてよ〜!」と笑い飛ばす私。
あはは…はは…は……じょ、冗談、だよね…?
日付が変わって28日の夜中、お腹の痛みは最早冗談では済まされないレベルに…。くっ…こんな日に限って旦那は今日、年内最後の仕事と言うことで朝まで忘年会。しかも幹事だからか携帯が繋がらない。とにかくメールで「病院行く。」と残し、何はともあれ病院へ行くことに。三日前、念の為電話機の横に貼っておいた「緊急の時はここに電話!」の張り紙をよもやこんなに早く活用することになろうとは…などと思いながら、病院に電話。普通なら五分もあれば着くタクシー乗り場まで20分ほどかけて行き、病院へ向かった。
「す、すみません…先程電話したものですがぁ…。」
痛むお腹を抑えながら、寝癖のひどい髪を振り乱し、緊急用受付へ息も絶え絶えになだれ込んだ。看護師さん達は手際良く私を車椅子に乗せ、産婦人科病棟へ。診断の結果、産道が半分近く開いてるとのことでこのまま、まさかの入院。この日は激混みだったらしく、陣痛室が一杯とかで空くまでお腹に色々なコードを着けたまま最終ステージだと思っていた分娩台でいきなり待つことに….。大学病院なので、私一人に構っていられるはずもなく、あ〜、この分娩台、昨日説明受けたなぁ〜とか思いながら、ひたすら一人、痛みに耐えた。
喉が渇いた…痛みもさることながら、とにかく喉がカラカラだ。だ、誰か私に一杯の水を恵んでくだされ…。すると思いが通じたのか、看護師さんが登場。
「す、すみません…み、…」
「ごめんなさいねぇ>_<ここ、もうすぐ分娩する人が来るから、場所移動出来ますか?」
「ず…」
私はまたもや車椅子に載せられ、今度は病室に連れて来られた。どうやら大部屋のようだが、寝かされたのはその奥にあるタンカーのような簡易ベッド。陣痛は激しさを増し、もう声も絶え絶えだ。
「ホントにごめんなさいねぇ>_<陣痛室まだ空かなくて…ベッドも一杯でこんなのしか用意出来なくて…空いたらすぐに移動出来るようにしますから>_<」とひどく恐縮して言う看護師さん。だ、大丈夫です。むしろ、ずっとこのままで…移動とかもう無理です。それよか、み、水を恵んでくだされぇ…。
出て行こうとする看護師さん。い、行かないでぇー、み、水くれぇ…すると看護師さんはくるっと振り向き「あ、喉乾いたでしょう。お水、持って来ますね。」
マジ天使….
無事水をゲットした私はいくらか落ち着いたものの、今度はお腹の痛みが激しい吐き気へと変わっていった。
こないだ説明を受けた、これが陣痛最終ステージ、赤ちゃんがもうすぐそこに来ている証拠だ。つまり、あともう少し!
この辺りで旦那、登場。しかもまさかの泥酔状態…。ま、忘年会だったからね、ある程度予想はしてたけど、それにしてもそれを上回る泥酔っぷり。絵に描いたような千鳥足で病室に入ってくると、虚ろな目で「大丈夫?」と聞いてきたが、もう断然お前が大丈夫かと言いたい。そして、事もあろうかそのまま、ベッドの近くにあった小さな椅子の上に雪崩れ込みそのまま寝始める旦那…。うっすら聞こえるイビキ…。……なんだろう、こみ上げるこの思い…お、お、お、
「…おええええええぇえ!」
私は近くにおいてあった彼の携帯目掛けて込みあげてきたもの全てをリバースしてやった。…ちょっとスッキリ…!防水で良かったね!
様子を見に来た先程の看護師さんがその惨劇に絶句。見るに見兼ね、横で屍と化している旦那に「もしお家が近かったらまだ生まれるまで時間かかりますので、一旦家に帰って休まれたらどうですか?」と提案、引き上げに成功した。
ところがそれから一時間もしない内に赤ちゃんの下がり具合を見に来た看護師さんが一言。「やっぱり旦那さん、呼び戻した方がいいかも…後一時間位で分娩室行く…かも…」
……マ、マジっすか…なんてあわてんぼうベイビー…
私は「モウスグ ウマレル スグ モドッテ。」と電報のような留守電を旦那に残し、ラストスパートに備えた。
しばらくして旦那再び登場。さっきより顔色は良くなったものの、まだ目は虚ろ気だ。にも関わらず、彼は得意満面の爽やかスマイルで「大丈夫!だってポカリ、すごい飲んで来たから!」と高らかにサムアップ。…なにが、だって、だ…。この未だ若干千鳥な状態において一体イオンサプライの何が彼にこれだけの自信を与えてしまったと言うのだろう…。それに加えて「いい仕事したな!おれ!」的なこのドヤ顔…神様、このアップされたサムをへし折りたいと思った私は悪ですか…?
とにかく今はそんなこたぁ、どうでもいい。私が一番言いたいのは、用意されたテニスボールをさっきからあーた
、背中にコロコロ転がしてますけどね、それは尾骶骨当たりに強く当てると楽になると言うもので背中にコロコロ、コロコロ……やめれ…やめれぇ!!とは言えないけどなっ。彼だって一生懸命なのだ。
そして、いよいよ分娩室へ!ここからはもう怒涛だった。看護師さん達から「いきみが上手いわ!」とやたら褒めちぎられ、私のお得意項目に「いきみ」が追加されたり、頭上で応援体制の旦那に「頑張れ〜!」と何故か光速でおデコを強く擦られ、「……痛ってぇなぁ!ぅおい!」と強く思ったり…(どうやら本人は頭を撫でているつもりだったらしい。)とにかく先生の「あともうひといきみで生まれるよ!」の言葉に何より勇気付けられ、小林由美子、32歳(当時)ラスト、ご自慢のいきみ、いきます……!!
2012年12月28日12時45分 2170g 44cm 少し小ぶりながらも、元気一杯の女の子、誕生。
喜び勇んでビデオを回し、今の感想は?とコメントを求めてくる旦那。その目は「言っちゃうんでしょ!?超感動すること言っちゃうんでしょー!?ハンカチ、ご用意ー!」という期待に満ち満ちていたが、私は天井を見つめたまま、「疲れた。眠い。」とボソリ。
旦那、みるみる内に超ガッカリ顏。だって正直それどころじゃなかったんだもん。夫婦の温度差はこうして生まれる。それでもテンションの下がらない旦那は生まれたての赤ちゃんを自分の解説入りで撮り続け、私はこれは永遠に続くのかな?と思った。まぁ、何はともあれアルコールと闘いながらも、よくやってくれました。お疲れさんです。ま、私がぐっとくるのは、初めて娘がおっぱいを飲んでくれた、もう少し後になってからのこと。
これから不安と期待で一杯のノンストップ子育て修行が始まるのだ。そして その不安を真っ先にかき立てたのは出産直後、喉が乾いたと言う私に「ゆみちゃん、好きだったよね!」と炭酸水を大量に買ってきたまたもや旦那の天然振りだった。