以前通っていたヨガ教室がマタニティコースを開設したというので早速行ってきた。このヨガ教室はマンションの一部屋を借りた定員5人のこじんまりとした教室だが、やはり妊婦さんが5人揃うとなかなかの迫力である。
教室内にはインドっぽいノスタルジックなBGMが流れ、一児の母でもある先生が自らの体験談を織り込みながらまず生命の神秘について語り出す。お腹にいるときのことを赤ちゃんは覚えているとか、生まれる時を自分で決めて生まれてくるのだとか。皆それぞれ感嘆の息を漏らしながら聞き入った。
そしてなんだかとても穏やかな雰囲気の中、本日のメイン、ヨガが始まった。
まずは繰り返し深呼吸。次に軽いストレッチ。普段怠けている筋肉が適度に引き伸ばされ実に気持ちいい。途中、先生が冗談を言ったりしてその度に教室中に笑いが溢れる。私の思い描いていたマタニティヨガとは正にこれだった。以前、マタニティ専門店に行った時、マタニティエアロビクスのDVDが流れていたのだが、私は目を疑った。そこにはレオタードを纏った今にも生まれんばかりの大きなお腹をした妊婦さん10名程がポップな曲に合わせ、大きなお腹を右へ左へ、およそ妊婦さんとは思えない大胆なステップをワンツー、ワンツーと掛け声と共に踏んでいたのだ。ワンツー、ワンツーではない、私は思わず「えっ!?いいの〜!?」と大声で画面に突っ込んでいた。DVDには「誰でも気軽に始められるマタニティビクス」と書いてあったが、私は「嘘だ…!!あの妊婦さん達は選ばれし妊婦さんなんだっ!!」と強く思った。
やはり、私のような一般妊婦にはこれ位のゆったりとしたマタニティヨガ位がちょうど良いのだ。
ところが、次に先生が出した指示に私は耳を疑った。
「はぁい、皆さん体は一通り解れましたね〜。ではここからが本番です。先ず、両肘、両膝をついてください。そうしたら、右足を頭耳の横に持ってきてください。そのままゆっくり3呼吸〜」
は…?右足を頭耳の横に…持ってくる…だ、とぅ!?そんなこと出来るのは選ばれし妊婦だけなんだよっ!!あたしは至って何の根性もない一般妊婦なんだよっ!!
つーか、大丈夫!?こんな格好して赤ちゃん、きょえ〜!!とかなってない!?ねぇ!!大丈夫なのっ!?
きっとここにいた5人、みんなが同じ事を思っていたはずだ。それぞれさっきまで感嘆の声を漏らしていた口からは「くっ…!!」とか「うぉっ…!!」などの耐える声が漏れ響いていた。
「はぁい、皆さん〜呼吸は止めないで〜赤ちゃんが苦しい〜ってなっちゃいますよ〜」
と言う先生の容赦ない注文に私は「違うねっ、呼吸を止める止めない以前にこの格好が苦しい〜ってなるよっ!!」と心で悪態をつき、完全に中二的反抗期を迎えていた。
そしてこの後も先生は次から次へと不可思議な難題ポーズを要求してきたのである。
私は思う…。人間の足などはそう簡単にそんな方向へは曲がったりしないと…。
吹き出す汗…プルプルと震える足と手…。時折入る先生の冗談などに最早笑う余裕など正直もうない。赤ちゃんがきょえ〜ってなっていないかの不安と戦いつつ、誰一人リタイアすることなくみっちり60分のレッスンを終えた。
私達はきっと選ばれし妊婦になったのだ。
駅までの帰り道、皆せき止めていた板をぶち破ったかのように「キツかったね…」「ハードだったね…」「あんな格好しても大丈夫なんだね…」「あたし、再来週予定日なんだ〜」「「「「えっ…!?」」」」
などレッスンの感想等が飛び交った。
まぁ、レッスンはキツかったけど、こういうコミュニケーションも取れて楽しいし、刺激になるので、また行けたら来よう。
余談だが、出産予定日を二週間後に控えていた妊婦さんだが、なんとこの日の夜産気づき無事男の子を出産したそうです。おめでとう!!